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OECD Multilingual Summaries

OECD Science, Technology and Industry Outlook 2012

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OECD科学・技術・産業アウトルック2012

日本語要約

  • 経済危機に起因する短期的なショックと、環境、人口、社会に関連する長期的なショックを背景に、OECD各国経済は先例のない課題に直面している。
  • 各国政府は、強力かつ持続可能な成長を確保するために適切な対応策を講じるべく、あらゆる政策領域を動員している。
  • 極めて厳しい財政状況下にあるものの、各国政府には、インターネットやグローバル市場によってもたらされる好機を捉え、、自国の人的資本、知識資本、創造性など主要な資産を活用していくことが求められる。
  • こうした取り組むべき課題の中で、イノベーション政策が中核的役割を担うことに期待が寄せられるが、実質的に機能するためには、イノベーション政策には、この新たな環境に対応することが求められる。効率的かつ効果的であるためには、イノベーション政策に妥当性、整合性、包摂性を担保することが要求される。

危機時のイノベーション

2008年に始まった経済危機は、科学・技術・イノベーション(STI)とSTI政策に大きな影響を及ぼしている。これらの傾向の多くはすでに2008年以前から顕著になってきたものだが、経済危機により、加速され、課題も拡大している。したがって、STI政策の見直しが一層急務となっている。こうした新たな環境に、一部の国は適応しているか、適応し始めているが、未着手の国もある。この結果、この新たな環境下で成長とイノベーションを遂げている国とそうでない国の格差が拡大している。

グローバル化された経済危機は直ちに世界各国のイノベーションに大きな悪影響を及ぼした。OECD地域の企業研究開発(R&D)費は2009年に過去最大の4.5%減を記録した。企業R&D費は、韓国とフランス以外の全ての主要なOECD諸国で落ち込んだ。2010年には一部の国でR&D費は回復したが、2009年以前の水準まで回復した国はなかった。落ち込んでからある程度回復するというこのパターンは、特許や商標などの指標から明らかである。最もイノベーションに積極的な国の中では、R&Dと特許が落ち込んでいるスウェーデンおよびフィンランドと、急速かつ安定した拡大を続けている韓国が、著しい対照をなしている。

現在の経済情勢とかなり不安定な先行きの見通しからすると、大半のOECD諸国、特に危機から非常に大きな打撃を受けた国々(一部の南・東欧諸国など)では、企業R&D支出の伸びは、予測可能な将来において、非常に低迷する可能性が高い。危機以前に比較的強固な枠組み条件を整備し、経済成長を大幅に回復させてきている国々(北欧やドイツなど)では、イノベーション活動は今後上向いていくかもしれない。しかし、フランス、日本、英国、米国などの国では、経済成長、イノベーションとも、先行きの不確実性が大きい。

2009年には、当初のショックによる悪影響は全ての業種の企業に及んだが、大手多国籍企業、特にハイテク分野の大手多国籍企業のイノベーション活動が2010年に持ち直した一方、革新的な起業はまだ危機以前の水準に戻っていない。2011年になっても依然として創業件数、ベンチャーキャピタル投資とも危機以前の水準を大幅に下回っていた。危機に際して倒産企業は急増し、その後、経済全体の実績を高めるとされる産業の再生とそれに応じた資源の再配分はまだ進展していない。

イノベーションは回復策の重要な柱であることから、2009年には多くの国で政府の資金助成が一時的に急増した。OECD諸国の政府R&D予算・支出(GBAORD)は約9%増加した。その大半はインフラ投資向けと企業向け(中小企業向けの信用保証、R&D関連税額控除の還付、政府調達など)だった。これが企業の支出悪化を一部相殺したので、2009年のOECD諸国のR&D支出総額は、こうした助成が行われなかった場合からすると、落ち込み幅がさほど大きくならなかった。しかし、政府の財政的な制約がより深刻化した2010年と2011年には、多くの国がそのR&D支出を大幅に抑えるか、削減した(OECD諸国のGBAORDは2010年に約4%減少した)。

危機を引き金にOECD諸国ではイノベーション活動が停滞するか落ち込んだが、一部の新興国ではそうした影響は見られなかった。中国は依然として高いGDPの伸びを記録するとともに、イノベーション活動も着実に伸び、2009年の企業R&Dは26%増加した。この結果、中国が世界全体のR&Dに占めるシェアは、2004年の7%から2008年には10.5%へと上昇したのに続き、2009年には13%まで跳ね上がった。危機が既存の傾向を加速したのである。同時に、インドやブラジルなどの開発途上国も政策課題の中でイノベーションの優先度を高めている。

STI政策の環境変化

経済危機は、イノベーション政策課題の目標と手段の双方の側面に影響を及ぼしている。経済危機は、新たな目標や手段の導入を促したわけではなく、ほとんどの場合、既存の目標と手段のバランスを変化させて経済成長への影響を最大化し、資源を節約することにつながっている。より広範に見ると、現在の環境は以前からすでに存在していた傾向を加速している。イノベーション政策は、(経済的・社会的目標に取り組む上での)妥当性、(相互の、また、他の政策との)整合性、(範囲と関係者に関する)包摂性を示すことがより強く求められる。

成長と競争力の回復はかつてないほどイノベーション政策の主要な目標となっている。OECD諸国は、特に解消が難しい公的債務危機への対処や、失業問題への取り組みのために、より高い成長を必要としている。知識経済では、イノベーションは成長の主要な牽引者である。新興国が市場の知識集約型の部分に関して先進国にますます攻勢を強めているので、先進国は付加価値を高める必要がある。これにはイノベーションが必要となる。

政府債務危機が示しているように、市場の関係者は政府の赤字をこれ以上穴埋めしたくないと思っているので、政府予算は逼迫している。政府は節約の必要に迫られており、大半の国ではSTI予算も削減の対象外とされていない。政府の施策は、使用する手段の再考、ガバナンスの変更、事前・事後評価のより広範な活用を通じて、効率性と実効性を高めなければならない。

社会的・環境的課題に対処する政策への圧力も強まっている。喫緊の環境課題としては、気候変動への対処、グリーン成長への移行、自然災害への取り組みなどが挙げられる。差し迫った社会目標としては、高齢化や保健医療などがある。財政制約が厳しい状況であるだけに、各国政府はこれらの課題に中・長期的に取り組むにはイノベーションが必要との認識を持ち始めている。

イノベーションをもっと幅広く捉え、その対象を、科学技術のみならず、サービス活動にも広げるという視点が、公共サービス関連の政策(教育政策など)を含め、様々な政策に徐々に浸透してきている。

イノベーション政策の手段の変化

イノベーション政策ミックスは、一気にシフトしたのではなく、徐々に変化を遂げてきており、それによって重要性が増す手段とそうでないものとが出てきている。

税制優遇措置: R&D関連の税制優遇措置をより利用しやすく、よりシンプルなものにするというのが、一般的な傾向となっている。R&D関連の税制優遇措置は現在3分の2以上のOECD諸国と他の多くの国々で導入されている。

需要サイドの政策: OECD諸国では、イノベーションの政府調達から標準や規制、さらに、リードマーケット(欧州の取り組み)や利用者・消費者主導型イノベーションへの取り組みまで、需要サイドのイノベーション政策が増えている。これらの政策は、イノベーション政策がイノベーション・システムとイノベーション・サイクルの全体に対処しようとする傾向を反映したものである。

起業家精神: 経済危機を受けて、金融的・構造的取り組み(行政障壁の撤廃など)の強化が多くの国によって実施されている。

クラスターと「スマート・スペシャライゼーション」: クラスターは、企業、高等教育研究機関、その他の官民の事業体をまとめて、補完的な経済活動に関する協力を円滑化するものである。「スマート・スペシャライゼーション」とは、経済・技術活動の新分野出現を特定・奨励しつつ、起業家や企業が科学・技術・産業の専門化パターンを強化することを支援するための政策枠組みである。

特許/IP市場: 特許対象物(ソフト、遺伝物質、ビジネス手法)と特許品質についてはこの10年、盛んに議論されている。重要な改革が実施されるとともに、特許庁は品質の改善に注力している。知的財産権(IP)市場は拡大しているように思われる。この市場には、様々なタイプの取引(ライセンス供与、売却)と関係者(仲介者、基金など)が含まれる。政府は、規制(特に独占禁止)を通じて、また一部の国では公的な特許基金を通じて、関与している。

情報通信技術(ICT)インフラ: 政府は質の高いインフラ(ブロードバンド・ネットワーク)の整備を促進し、その管理経営(価格など)が適切な使用をもたらすようにすることができる。

公的研究機関による研究の実効性向上

公的研究機関による研究の商業化: 経済危機の余波として公的な資金助成が減少している中、この目標の緊急性が高まっている。主要な傾向は、技術移転機関の専門組織化と(中小規模の機関の再編による)規模拡大である。主な手段は依然としてスピン・オフ(訳注:特定部門を新会社として独立させること)(例えば振興支援策の中で)、委託研究、特許取得、実施許諾などであるが、オープン・サイエンスへの関心も高まっている。

オープン・サイエンス: 科学の商業化が進み、ICTによって知識の利用が技術的に容易になったことなどに伴い、多くの国の政府が科学を広範に普及させ、社会や経済に浸透させたいと考えている。これは、必要とされる技術インフラ(データベースなど)や法的枠組み(知的財産)を整備するということを意味する。

国際化: 自国の研究者や研究機関をグローバルな知識ネットワークに繋ぐことは、重要な政策目標である。そのための手段としては、研究者の移動を奨励する法的枠組みや財政的インセンティブ、グローバルな課題に取り組む研究プログラムに関する国際協力などが挙げられる。

大半の国では、高等教育部門は引き続き組織の分散化へと進んでおり、大学に自治権と責任が与えられている。これは、研究資金助成の比重を制度的な資金助成から競争的補助金へと移すというモデルに沿ったものである。

イノベーション政策のガバナンス強化

目標と手段ばかりでなく、関係者(地域、専門機関、官民パートナーシップ(PPP)など)も多様化してきているので、政策設計と実施の整合性確保や、政府による管理維持などのためには、イノベーション政策を調整する新たな方法が必要となる。

STI制度の近年におけるガバナンスの変化としては、ある程度自律性を持つ専門機関に様々な役割(公的な研究所や大学への助成金の配分など)を管掌させる傾向や、国家の政策を補完すると同時に地域間の競争を促す地域政策の登場などが挙げられる。

国家STI戦略が多くの国で策定・実施されている。この戦略は、社会、経済の発展とそれに応じた投資、改革の課題に対するSTIの貢献について、政府の見解を明文化したものである。

各国政府は財政危機時にもR&Dとイノベーションに多額の資金を投じているので、STI政策の評価に対する政策的関心が近年高まっている。各国政府は、場合によっては単一の専任機関を設置することで評価枠組みを統合し、評価手続きを合理化し、あるいは評価単位の調整を強化してきた。共通の手法の定義づけや、様々な指標の統合により、実務との調和化に取り組んでいる国もある。また、少数ながら、データインフラや専門家コミュニティを構築している国もある。

社会的・地球的課題への対処

環境保護とグリーン成長への移行: 世界の温室効果ガス(GHG)排出量を削減し、環境資産(きれいな空気、水、生物多様性)を保護するには、イノベーションとグリーン技術の大規模な導入が必要とされる。さもなければ、人類の「グリーン資本」を枯渇させないようにしつつ、過去数十年にわたる成長軌道を維持することは非常に難しく、かつ、非常にコストがかかる。したがって、OECD諸国政府と新興諸国は、グリーン技術の普及と導入に向けたR&D関連の活動とインセンティブを優先課題としている。再生可能エネルギー・プログラムは、GHGを減らすとともに石油依存度(石油価格は近年急騰している)を引き下げることを狙いにしている。環境とエネルギーは、大半の国のイノベーション戦略で重視されている。

高齢化と保健医療への対処: 大半のOECD諸国ばかりでなく、一部の新興諸国でも、多くの場合急速に、人口の高齢化が進んでいる。この結果、保健医療サービス、長期介護制度、財政への圧力が強まるとともに、労働力の高齢化につれ、経済実績も抑制されることになる。科学技術、特にICTアプリケーションは、高齢者が可能な限り健康で自立的かつ活動的な生活を維持できるようにする上で重要な役割を果たす。保健医療の課題は高齢化と密に繋がっているが、その課題の中には全ての年齢層が罹患する病気も含まれる。最高の科学を開発し、効果的な治療方法を活用し、治療と機器にかかる費用の高騰を抑えるには、イノベーションが必要とされる。

開発のためのイノベーション: かつては先進国の専売特許と考えられていたイノベーションも今では多くの新興国によって行われており、世界全体のイノベーションに占める新興国のシェアが高まっている。新興国はもはや、自国の希少な資源を他の用途(教育など)に充てながら、単に追いつくための技術を海外から導入しているわけではない。技術を導入する場合でも、適応と「何らかの手直し」が必要となる。これはすでにイノベーションである。イノベーションの概念はハイテクよりはるかに多くのものを包含し、その中にはローテク、サービス産業、社会的イノベーションなど、あらゆる開発レベルで必要とされるものが含まれる。世界トップクラスの科学基盤はイノベーションの条件ではない。イノベーションは貧困削減(全ての国、特に開発途上国にとって優先課題)に資し得るものである。「包摂的な」イノベーションは、中・低所得層が新製品を入手しやすくしたり、貧困層が「非正規」かつ生産性の低い仕事を近代化したりできるので、より直接的な影響を及ぼす。

© OECD

本要約はOECDの公式翻訳ではありません。

本要約の転載は、OECDの著作権と原書名を明記することを条件に許可されます。

多言語版要約は、英語とフランス語で発表されたOECD出版物の抄録を 翻訳したものです。

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© OECD (2012), OECD Science, Technology and Industry Outlook 2012, OECD Publishing.
doi: 10.1787/sti_outlook-2012-en

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