1887

OECD Multilingual Summaries

Artificial Intelligence in Society

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社会の中の人工知能

日本語要約

機械学習、ビッグデータ、演算能力が、近年の人工知能の進歩を可能にした

人工知能(AI)を取り巻く技術環境はアラン・チューリングが「機械は考えることができるか」という問題を初めて提起した1950年から大きく変化している。人工知能という造語は1956年に誕生した。それ以降、AIは人間が論理型システムを構築した象徴的なAIに始まり、1970年代の「冬の時代」を経て、1990年代にはチェス専用スーパーコンピューター「ディープ・ブルー」へと進化した。2011年以降は、統計的手法を用いたAIのサブセットである「機械学習」(ML)の飛躍的進歩によって過去のデータから予測するという機械の能力が向上した。AIの開発が拡大した背景には、大量のデータセットと計算能力に加えて「ニューラルネットワーク」と呼ばれるMLモデル化技術の完成がある。

AIシステムは、環境に影響を及ぼす結果を予測・提言・判断する

OECDのAIに関する専門家会合 (AIGO)では、AIシステムを以下のように解説している。「人間が定義した一定の目的のために、現実または仮想の環境に影響を及ぼす予測、提言または判断を行うことができる機械ベースのシステムである。AIシステムは機械もしくは人間またはその双方によるインプットを基に現実もしくは仮想の環境を認識し、そのような認識を(MLを用いる自動化された方法または手動で)モデル化し、モデル推論を基に情報や行動の選択肢を定式化する。AIシステムは様々なレベルの自律性をもって動作するように設計されている。 」

AIシステムのライフサイクルの諸段階は、i)計画と設計、データの収集と処理、モデルの構築と解釈、ii)検証と確認、iii)展開、iv)操作と監視である。AIの研究分類学では、AIの活用(例えば、自然言語処理)、AIシステムに教え込むための技術(例えば、ニューラルネットワーク)、最適化(例えば、ワンショット学習)、社会的配慮に対処する研究(例えば、透明性)を区別している。

AIは、生産性の向上と複雑な問題の解決を可能にする

AIが汎用技術になるにつれ、AIをめぐる経済環境は変化している。AIには、より安価で精度の高い予測、提言、判断を行うことで生産性を向上し、暮らしやすさを改善し、複雑な問題への対処の一助となることが期待されている。 AIを活用するためには、データ、スキル、デジタル化されたワークフローへの補完的投資に加えて、組織のプロセスの変更が必要となる。したがって、AIの採用は企業や産業によって異なる。

AIへの投資と事業開発が急速に拡大している

AIスタートアップ企業への未公開株式投資は5年間、着実に増加した後、2016年から加速した。未公開株式投資は2016年から2017年にかけて倍増し、2017年には160億米ドルに達した。2018年上半期、AIスタートアップ企業は全世界の未公開株式投資の12%を占めた。2011年には主要経済圏全体でも3%を占めるに過ぎなかったことから考えると著しい増加である。こうした投資は通常、数百万ドル規模の大きな取引である。成熟した技術とビジネスモデルにより、AIは幅広い展開に向けて進歩している。

輸送から科学、医療まで、AIは幅広く活用される

AIの活用は多くの産業部門で急速に普及しており、そこでは大量のデータのパターンを検出し、複雑で相互依存するシステムをモデル化して意思決定を改善し、コストを削減することが可能になっている。

  • 輸送部門では、バーチャルドライバーシステム、高解析度地図、最適化された交通ルートを搭載した自律走行車の全てに、コスト、安全性、生活の質、環境面でのメリットが期待されている。
  • 科学研究ではAIを駆使して大規模なデータを収集、処理し、実験の再現とコストの削減に寄与し、科学的発見を加速させている。
  • 医療分野では、AIシステムが疾病や大流行を早期に診断・予防し、治療法や薬を発見し、状況に適した介入を提案し、セルフモニタリングツールを推進する一助となっている。
  • 刑事司法では、AIが予測的な警備や再犯リスクの評価に使用されている。
  • デジタルセキュリティアプリケーションは、AIシステムを使用してリアルタイムでの脅威の検出・対応の自動化を高めている。
  • 農業におけるAIの活用としては、作物と土壌の健康状態のモニタリング、環境因子が作物収量に与える影響の予測などがある。
  • 金融サービスはAIを活用して不正行為の検知、信用力の評価、顧客向けサービスのコスト削減、取引の自動化、法令順守のサポートを行っている。
  • マーケティング・広告の分野では、AIが消費者の行動に関するデータをマイニングして、コンテンツ、広告、財・サービス、商品提案、価格を対象に合わせてパーソナライズしている。

信頼できるAI がそのメリットを享受するためのカギ

AIはメリットをもたらすと同時に、社会秩序に関わる懸念も高めており、信頼性の高い人間中心のAIシステムを確実にする取り組みが必要である。 AI、特に一部の種類のMLは、これまでになかった種類の倫理や公正性に関する懸念を引き起こしている。その中でも特に重要なのが人権と民主的価値の尊重、アナログからデジタルの世界へ偏見を移行させることの危険性である。一部のAIシステムは非常に複雑であるため、その判断を説明することは不可能である。 そのため、AIの使用に関して透明性が確保され、結果に責任を負うシステムを設計することが極めて重要である。 AIシステムは安心安全な方法で適切に機能するものでなければならない。

信頼できるAIシステムを促進するためには、責任あるAIの研究開発への投資を奨励するなどの国内政策が必要である。AIは、AIテクノロジーと計算能力に加えて、膨大な量のデータを利用する。そのため、強力なデータ保護、プライバシー保護と共に、データへのアクセスを可能にするデジタル環境の必要性が高まっている。 AI対応型のエコシステムは、AIの変化を促進し、競争環境を確保するため、中小企業の支援も可能である。

AIは、人間が行う労働の構成要素に取って代わったりそれを変更したりするため、仕事の性質を変えることになる。したがって、人々が転職する際の移行を円滑にし、継続的に教育、訓練、技能開発が行えるようにする政策が必要になる。

AIは、あらゆる関係者にとって優先度の高い政策である

大きな変革をもたらすAIのメリットとそのリスクを踏まえ、AIはあらゆる利害関係者にとって政策上の優先度が増している。多くの国々がAI戦略の策定に力を入れており、戦略ではAIを成長と幸福の原動力と見なし、次世代の研究者を教育、採用することを目指し、AIの課題に対処するための最善の方法を検討している。企業、技術団体、学術界、市民社会、労働組合などの非政府関係者の他、G7、G20、OECD、欧州委員会、国際連合などの国際機関も行動を起こしている。

2019年5月、OECDは人工知能に関する原則を採択した。これは複数の関係者で構成される専門家グループの指針をもとにまとめられ、信頼できるAIの責任ある普及について各国政府が合意した初の国際標準である。

© OECD

本要約はOECDの公式翻訳ではありません。

本要約の転載は、OECDの著作権と原書名を明記することを条件に許可されます。

多言語版要約は、英語とフランス語で発表されたOECD出版物の抄録を 翻訳したものです。

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© OECD (2019), Artificial Intelligence in Society, OECD Publishing.
doi: 10.1787/eedfee77-en

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